EPISODE3: 泣けない封術士と過去の棘 – エピローグ

 手にした書類が開け放った窓から吹き込む風にバサバサと煽られる。
 それでも、窓を閉めようとしないのは、ひとえに暑いからで、ドアの故障だかで一時間以上列車が止まり続けている現状に悪態をつきながら、フレイが詰襟の首元を緩めた。
 窓の外は途中駅のホームが広がっていて、道急ぐ人々が足早に歩いている。
(ブレンか……)
 書類に記載されていた地名は、首都ロエナの東にある小さな町だ。
 大した名物もないが、穏やかで過ごしやすい土地で、だがフレイの持つ資料にその名前が挙がっているという事は、今は非常事態となっている可能性が高い。
「ここにすっか」
 適当にのったこの列車が進む先に、その町もある。
(さっぱり動かないけど)
 じりじりと熱い社内にまた悪態をつきながら、次の目的地をブレンに決めた。
 ロエナを出る前に、アレンに禁呪らしき事例の調査を依頼した。もちろん過去事例ではなく、最近のものだ。その結果がこの数枚の調査結果レポートだが、短期の調査依頼だったのにも関わらず、その内容は充実していて、中々役に立ちそうである。
 アイリディア、と森で眠り続ける少女に思いをはせる。
 地道に禁呪を封じながら、また彼女を解放する方法を探そう。
 あまりに終わりの見えない日々に、精神的にそろそろギリギリな気もしていたが、ここ最近、思っていたよりまだ大丈夫なのではとフレイは感じ始めていた。
 沢山の甘い菓子と、確かな情報と、あと――
 けほり、と喉のイガイガした感覚にせき込む。
 アクリオのサンドトレインに吹き込んでいて辟易とした、あの砂埃のせいではない。
 色々あって――いや、色々されて、声を上げ過ぎて喉を痛めたせいだ。
 あの野郎、と憎たらしい銀髪を思い出し、組んだ脚に顔を伏せ蹲る。まだ腰が痛い。
「ここ良いですか」
 不意にかけられた声に俯いたまま「どうぞ」と答え、息を吐く。
 また小さく咳が出る。
 向かいの席に座った人物は、フレイの咳に「おや」と呟くと、ごそごそと懐から何かを取り出した。
「舐めますか? 甘いですよ」
「………………」
 緩慢に顔を上げ、差し出された手に乗った包み紙を摘み上げる。カサカサと小さなそれを広げれば、コロンと丸い玉が転がり出た。
 中に小さな星が封じ込まれた可愛らしい飴だ。
「お前、俺を太らせたいの?」
 口にそれを放りこめば、仄かなサイダーの味。
 向かいの席に座った銀髪の男は、フレイの言葉に「まさか」と笑って図々しくのたまう。
「ただ、笑顔が見たいだけですよ」
 ドアの修理が完了したという車内アナウンスと共に、けたたましいベルが鳴り響く。
 急いで駆けこんでくる人々。
 ガタンと揺れて、ドアが閉じる。
「……くっそ甘い」
 決して嫌いではない甘さを舌の上で持て余しながら、フレイはそう毒づいた。
 

EPISODE3: 泣けない封術士と過去の棘 end
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